2021年12月10日発売「my HERO vol.02」より引用
【YouTuberの戦略】my HERO vol.02 ~ BEHIND THE SCENE ~
──Marina Takewakiチャンネルのキーワードは、チャンネルの概要にも登場する「宅トレ」という言葉。自宅でトレーニング、という意味ですよね。
ダーウィン そうですね。ちょうど英語のハッシュタグワードを考えてたところだったのですが「Sweat at Home」。つまり家で汗をかく、ということです。
──コロナ禍のため、「家」で楽しめることや受けられるサービスがものすごく拡大しましたが、Marina Takewakiチャンネルが急成長したのもちょうどコロナ禍の最中でした。この「宅トレ」のアイデアは、はどういう経緯で生まれたんですか?
まりな 2019年の秋からYouTubeにトレーニング動画を出し始めたんですが、視聴者さんから「マンション暮らしなので、足音がドンドン響かないやつをお願いします!」っていうコメントが入ったんです。その当時、私たちはNYに住んでいたんですが、アメリカって土足文化なので床がしっかりしていて、多少跳んだりはねたりしても響かないんですよ。だからコメントをいただいて「なるほど」と考えて始めたのが、「マンションOKシリーズ」で、それが「宅トレ」っていう概念になっていった、という感じです。
——チャンネルの説明のところには「宅トレを当たり前の世界に」というチャンネルのミッション、お二人の夢が明記されていますが、この考えはいつ頃、固まったんですか?
まりな たぶん、「マンションOKシリーズ」をやるようになって、私たちの間で少しずつ言語化されていって……去年(2020年)の春ぐらいじゃないかな。
ダーウィン そう考えると最近なんだね。もうずいぶん前のことのような気がする!
──ダーウィンさんが参加して本格的にお二人でチャンネルの運営を始めたのが、2020年の1月ということですが、そもそもこのチャンネルは、2018年にまりなさんが始めたんですよね?
まりな そうです。最初はもっと日常的なVlogっぽい動画をやってました。私は、20代の終わりにヨガやフィットネスの講師になろうと決意して会社を辞めて、インドやアメリカで学んで資格も持っていたんですが、日本でぜんぜん仕事を得られなくて、失意のままダーウィンの転勤でNYに引っ越したんです。それで、NYの暮らしやトレンドを紹介するYouTubeを始めたんですが、登録者数300人とかでした。
──転機になったのが2019年の9月に公開したダンス動画ですね。
まりな そう、その時に流行ってた「2週間で10kg痩せるハンドクラップダンス」をやってみた動画を作ってアップしたら、バズって。それをきっかけにダーウィンが「トレーニング動画の方がいい!」ってプッシュしてくれるようになったんです。
──ダーウィンさんがそうプッシュする根拠ってなんだったんですか?
ダーウィン 実は、僕はYouTubeも観たことなくて、SNSも全くやってなかったんです。ただ、まりなのことはもう100%応援していて、「ヨガの先生になりたい」「うん、応援する!」「海外で修業してみたい」「OK、応援する!」「YouTube始めた」「いいね、応援する!」ってすべて肯定して、応援してきました。そうしたら、そのハンドクラップの動画がバズって、その時初めて僕は「これってどういう世界なんだろう」とYouTubeを開いてみたんですよ。
まりな 彼はもともと市場分析とかマーケティングの仕事をしてた人なので、YouTubeを観て「この世界はなんなんだ!」って、「分析屋さんダーウィン」が目覚めたわけです(笑)。
ダーウィン いや、僕にとっては全然未知の世界だったから。とにかくめちゃめちゃYouTubeを観たんです(笑)。調べていったら、海外には100万人超えのフィットネス系のインフルエンサーがいっぱいいたんですけど、当時、日本にぜんぜんいなかった。ビューティー系はいっぱいいるけどフィットネス系は誰もいないから、いけるんじゃない!? って、そんな直感があって。彼女はそういう勉強もしていて知識もあるし。あと、そのまりなのバズった動画が今までの動画と何が決定的に違ったかというと、同じ方が毎日観てくれてたんです。しかもただ観るだけじゃなくて、「一緒にやってる」っていう人がコメントにも多くて。そこから「観る」んじゃなくて「一緒にやる」っていうヒントをもらったのは覚えてますね。
まりな それでダーウィンは「運動の動画をまずは50本やってみなよ!」って言ってくれたんですが、ただ、私にしてみたら、もともとヨガとかフィットネスの仕事を目指したのにぜんぜん仕事にならなかった時期があって、自分にはもうそういうフィットネスを人に伝える才能はないんだって自信喪失してたわけです。ましてや全世界に発信するようなYouTubeで、1本たまたまバズったものの、フィットネスに特化したチャンネルなんて、無理~! というのが第一印象ではありました。だいたい当時は今より撮るのも編集も時間がかかったので、1本作るのに何日かかると思ってるんだ! 50本なんて! とも思った(笑)。
──何が原動力となって行動できたんでしょうか?
まりな 一番は彼の熱意です。「絶対やった方がいいよ!」って。そして、ただ言うだけじゃなくて、私が動画作るのに時間が取られる分、家のことをいろいろやってくれたり、「こういう音楽どう?」とか「こういうアメリカのフィットネスYouTuberがいてこんなことをしているよ」ってリサーチしてアイデアをがんがん出してくれたり。それがあったから、私もやれたと思うんです。
──今、チャンネルを運営する上で、お二人がこだわっていることはなんですか?
まりな 基本的に動画を始めた頃から、視聴者さんから意見を聞くっていうスタンスはあって、宅トレのベースになった「マンションOKシリーズ」もそうですし、私たちの活動の名前というか、Marina Takewakiチャンネルで展開しているトレーニングの総称でもある「マリネス」という名前も、YouTubeのライブ配信でみなさんから意見やアイデアを募って、私の名前のMARINAとFITNESSとWELNESSを組み合わせた言葉として提案してくださったものを採用したものです。そんなふうに私たちのすべての活動には、視聴者のみなさんのコメントを反映させるっていうのが、もうDNAみたいに刻み込まれている。
ダーウィン 全部コメントから作ってるもんね。商品も、我々の方で概要や大枠は作るんですけれど、色とかプロテインの味とかそういうのを決めるプロセスは本当に「みんなで」やってます。だから、なんかエンタメというよりは、Marina Takewakiというインフルエンサーを軸にした社会貢献活動と思っているところがありますね。
──みんなと一緒にみんなのために、ということですか?
ダーウィン そうです。僕らの夢の「宅トレを当たり前の世界に」っていうのは、ちょっと大きな話をすると、日本の医療費を下げたいと思っているんです。Marina Takewakiチャンネルをきっかけに運動する人が増えて、日本の運動人口が増えることで、みんなの健康への意識も高まる。もしかしたらファストフードを週3回食べていた人が週1回になって、結果糖尿病になる人たちが何パーセントか減って……っていうことが可能だと思っています。
──そういう目標があることは、活動のモチベーションになっているのでは?
ダーウィン そうですね。僕は今までずっと金融業界で働いてきて、「人のために」ということをこんなにリアルに感じることがあまりなかったんです。でも今はそういう大きなミッションがあることがモチベーションになっています。
まりな 私とダーウィンは担っている役割が違うので、ちょっとモチベーションを感じる部分が違う気がしています。彼はプロデュースやチームのマネジメントのような経営の部分を見ていて、私はクリエイティブな部分と、フロントでコミュニケーションを取る一番視聴者さんと近いところにいるわけです。だから、私のモチベーションはもっと身近なところにあって、みなさんからのDMやコメントが本当にうれしい。みなさん毎日やってくれて、「体がこんな風に変わりました」「気持ちが前向きになりました」「ありがとうございました」っていうのが、毎日100通くらい来るんですよ。その一つひとつのコメントが、私のモチベーションです。
──直接触れ合える人に向かってなのか、もっと大きな社会に向かってなのかは違いますが、でも「誰かのために」「誰かを喜ばせたい」という点では、お二人のモチベーションは同じなのかもしれませんね。見ているポイントは違うけれど方向は一緒、みたいな。
ダーウィン あぁ、そうかもしれないですね。
まりな あの、初めましての方に私たちの説明をする時によく言うんですけど、私がミッキーマウスで彼がウォルト・ディズニーなんですよ。それでディズニーランドはマリネスという我々が作っているトレーニングの場。私は、視聴者さんとかお客さんの一番近くでショーを盛り上げて楽しんでもらうのをどうするかっていうのを考えるし、自分のパフォーマンスを上げに行くし、どういう音楽でどういうダンスでとか、どういう声かけをしたら盛り上がるかなっていうのに全力で。彼はそれを扱うウォルト・ディズニーとして、ミッキー=私がどうあるべきかとか、ディズニーランド=マリネスがどうあるべきかというのを整理して考える。ここにお客さん=視聴者さんが来てくれて、みんなで一緒にマリネスを作ってる。そんなイメージなんです。
──そういうお二人の役割分担というのはどのように決まっていったんですか?
まりな 話し合いですね。我々、何でも言語化するタイプで、なんとなくで決まることはなくて、とことん話し合います。最初に一緒にやり始めた時は、当然役割分担もなく始めたので、今みたいに「ミッキーとウォルト・ディズニーです」なんて説明できる状態じゃなかったんですけど。
ダーウィン 最初二人で始めた時は、僕は彼女をサポートするのが仕事だったんですけど、この2年でどんどんチームが大きくなって、事業が新しくスタートして……っていうふうに変化したので、その都度話し合いをして。まりなの仕事はフロントなのであんまり変わってないんですが、僕の仕事はどんどん変わってきてますね。
まりな 夫婦だし、仕事上のパートナーだし、Marina Takewakiチャンネルの規模が大きくなってやることもいろいろと増えていく中で、役割分担ができるまでが一番大変だったかもしれないですね。最近は、家では朝10時までと夜10時以降は仕事の話しない、っていうルールも決めたよね。
ダーウィン そうね。だいたい去年の夏頃には今みたいな役割分担の考え方ができてたと思うんですけど、今もまだまだ変化していますね。
──YouTubeの外の活動、テレビ出演や書籍刊行、商品開発などの事業を展開する際に、YouTubeの数字は意識していますか? 100万人いったらこれやろう、とか200万人いったらこれを出そうとか。
ダーウィン それはないです。あくまでも「宅トレを当たり前の世界に」っていうミッションがあって、それに対してどういう役割を果たせるのか、いつやるのが効果的かということを判断して事業展開しているので。
まりな 数字じゃなくタイミング、ってことだよね。
ダーウィン そうそう。たとえば書籍。なんで作ったかというと、これは宅トレの教科書なんです。動画では分からないポイントをまとめたテキストで、あのタイミングで必要だと考えたから作ったわけです。あとマリネスの商品開発も「宅トレを当たり前の世の中に」という目的にかなうものしかやりません。だからうちの主力商品はマットなんです。マットを敷く=家の中でトレーニングをする、なので。
まりな ウェアもありますが、ウェアは𠮷野家でいうとお新香みたいな感じ。マットが牛丼です。
──なるほど。YouTubeをベースに、商品も書籍もテレビも、すべては宅トレを当たり前にするための手段。
まりな アパレルは最初から彼がやらないって言っていて。Tシャツだけ最低限のものとしてあるんですが、マリネスは、アパレルブランドをやりたいわけじゃなくて、宅トレブランドなんです。
ダーウィン YouTubeでも「ビューティ系の100万フォロワープレーヤーがこんなにいるのにそこで今から戦うの?」って思うのと同じで、アパレルも山ほどあるんだからそこで競わなくても、自分たちにはもっと別のものがある。
──「宅トレ」ですね。
ダーウィン そう。結局、僕たちの一番の強みはそこがぶれないことだと思うんです。数字自体が目標のYouTuberは、伸びないと路線変更したりして軸がぶれやすくなってると思うんです。僕たちは「宅トレを当たり前の世界にしたい」っていう強いミッション、思いがあるから、ぶれない。……ただ、今はこの考え方がワークして数字が伸びているから言えることかもしれないですけど。
まりな 来年この記事を読んだら「何言ってんだ」って自分たちでも思うかもね(笑)。私も、ダーウィンの言うように「宅トレを当たり前の世界に」っていうぶれない軸があることが私たちの強みだと思うんですが、もっと言うと、私たちのチャンネルに来たら必ずポジティブな気持ちになってもらえる、っていうことをすごく大事にしてて。言葉も運動の仕方を伝えるだけじゃなくて、どっちかっていうと「今の自分でも十分すてきだよ!」とか「明日もっときれいになってるよ!」とか、何かそういうポジティブになれる言葉をかけてるんです。そこが他のフィットネスチャンネルとは違う。いかにスクワットがうまくできるかを私たちは伝えたいわけじゃなくって、いかに自分のことが好きになれるか、をゴールにしてるチャンネルなので。
インタビュー全編は本誌をご覧ください。
1989年秋田県生まれ。「もっと自分を好きになる」をテーマに自宅で楽しくできるフィットネスやダイエット料理などの動画を発信する「宅トレ」YouTuber。大手金融系企業を退社後、2018年12月にYouTubeを開始。2019年12月に多くの人気クリエイターが所属するUUUMに所属、2020年1月からは夫のダーウィンが企画・プロデュースで参加。二人三脚でチャンネルを運営し、2020年5月にチャンネル登録者数100万人を突破。同年9月より初レギュラーTV番組『Let’s!美バディ』(TBS)がスタートするなど、YouTubeをベースに活躍の場を広げている。著書に『やせるダンス』(KADOKAWA)。チャンネル登録者数は361万人(2023年5月20日時点)。