2021年12月10日発売「my HERO vol.02」より引用
【YouTuberの戦略】my HERO vol.02 ~ BEHIND THE SCENE ~
——カルマさんはYouTuberの中でも孤高の存在で、なかなかお会いできないという噂を耳にしていました。こうしてお話を聞けるのは貴重な機会かもしれないですね。
カルマ そう思っていただけるとしたらありがたいですし、俺の戦略通りですね(笑)。実は、今回のお話をいただいた時、最初お断りしようと思ったんですよ。正直、よくわかんない雑誌だし。安く見られるのは嫌なんで。
——編集長が苦笑いしてます(笑)。
カルマ すみません(笑)。実際、来た仕事の9割はお断りしてるんですよ。でも、こうして出たのにはちゃんと理由があって。表紙を見たときに、クリエイティブだなって思ったからなんです。部数が多くてこれに載れば有名になれるから出るってわけじゃないです。本当にその媒体を通して何かを伝えられるか、価値を持たせることはできるかが判断基準です。
——今日の撮影は衣装も設定も難易度が高かったと思うんですけど、見事に自分のモノにされていましたね。こちらの想像の斜め上をいくカルマさんの世界観に引き込まれました。
カルマ 雑誌にこうやって自分の「顔」が載るわけじゃないですか。そしたら自分の見せたい「顔」しか見せたくないんですよ。こういう撮影現場で、どこまで自分のクリエイティブを出すかっていうのは毎回毎回手探りなんですけど、やっぱり自分の見せ方は自分が一番分かってると思うから、まずは空気感を変えますね。ふざけます。面白いもの撮りたいんだったら面白い雰囲気にまずなってないとダメだし、何言っても許される「愛されキャラ」にならないと。話はそれからなんで。俺、勉強できないんですよ。言葉で指示されることをそのままやろうとすると、もう全然ダメ。だから自然に振る舞えるように感覚に落とし込むんです。
──カルマさんが見せたいカルマ像ってどんなものですか?
カルマ 言葉にするのは難しいですね。とにかく一個一個のものに価値を持たせたいなとは持っています。「うわ、コイツすげえ」「コイツに勝てるやついねえ」って思わせたい。それ以外の細かいことは、もう感覚に任せちゃうところがあります。
──「投稿頻度を高めて親近感を演出する」ことがYouTuberの正攻法になりつつある中、カルマさんは真逆のスタンスを貫いていますよね?
カルマ YouTuberの中でも、俺は「だいぶ違う方」だと思います。投稿頻度もそうだし、動画のクオリティもそうだし、見せ方もそうだし。今って、視聴者さんを「追う」形になってるじゃないですか。「何曜日の何時に投稿するので来てください!」とか「チャンネル登録お願いします!」とか。俺そういうの一回も言ったことないです。むしろ「首を長くして待ってろよ」って。視聴者さんに「追われる」のが一番強いと思うんですよね。
——追うよりも、追われる戦略。
カルマ 親近感を持ってもらうためにマスコットになる必要はないし、なりたくもない。俺はめちゃくちゃこだわる性格だから、毎日投稿とかできないことも最初から分かっとった。だから、親近感や投稿頻度で戦うという選択肢がそもそもないんです。YouTubeっていう今の時代のプラットフォームを使って「スター」になれる人、カリスマ的なポジションにつける人が1人ぐらいいてもいいじゃないですか。ただ有名になりたければ事件起こして新聞に載った方が早いですし。
──昔は相当ヤンチャだったそうですね(※1)。そもそも、カルマさんがYouTubeを始めた目的ってなんだったんですか?
カルマ YouTubeは「現代における最強の名刺」だと思ったからです。俺、16歳で非行生活から足を洗って上京して芸能の養成所に入ったんですけど、オーディションで憧れの人とか目標とか夢とか散々聞かれたんですよ。でも「そんな分かりやすい言葉でよう返せるな、みんな」ってずっと思ってて。「憧れる人はカルマですって言われるような人になりたいです」っていうのが俺の答えなんだけど、初めての人にそれじゃ伝わらない。俺の才能を発揮できる場所をずっと模索して、たどり着いたのがYouTubeだったんです。俺のYouTubeを観てくれたら、いちいち説明いらないし、取り繕わなくていいじゃないですか。そういう「名刺」になり得るのって、動画サイトであるYouTubeだけなんですよ。インスタとかTikTokじゃ伝わりきらない。それでYouTubeが「名刺」となるための最低条件が「100万人」だと思ったんで、まずはそこを目指そうと。始める前に1カ月ぐらいかけて設計図を描いたんですけど、今ここに座ってるところぐらいまでは全部計画通りですね。予想外だったのは、そのスピードが速すぎたってことだけです。
──当初はどれぐらいで100万人いくと予想してたんですか?
カルマ 少なくとも、1年ぐらいでいくとは全く思ってなかったです。だってどう計算してもソロで、この投稿頻度で、100万突破する人いないじゃないですか(笑)。
──たった100本で150万人突破したんですよね。
カルマ しかもど素人だったんで。Twitterのフォロワーなんか10人しかいなかったですよ。YouTubeで本当に一から、何も頼りようがなかったんで、結構長い道のりになるんだろうなと覚悟してたんですけど。
──YouTube始める前に描いた設計図ってどういうものなんですか?
カルマ 何万人でこういう自分を見せて、何万人でこういう自分を見せるっていうのを緻密に考えてました。ものすごく簡単に言うと、「身の丈」に合った戦略を立てるってことです。「やりたいこと」とか「なりたい像」を先行させちゃダメなんですよ。まずはその時々で「やれること」をやらない限り、「やりたいこと」には絶対にたどり着けない。少なくとも60万人ぐらいまでは、自分の本当にやりたいことはできないだろうな、と考えてました。
——最初にバズったのは「変装企画」(※2)ですよね。カルマさんの認知度が一気に広がりました。
カルマ 変装企画でバズらせるっていうのは、YouTube始めた時からもう決めていたんです。でも、母数=登録者数が100人の状態だと本来バズるものもバズらない。そこで1〜2万人ぐらいまでコツコツ数を増やしてバズる下地を作ってから、渾身のやつを1発目に投下するっていう。1万でもまだまだ母数は少ないんですけど、その1万人の評価が高ければ、自分が持ってるアベレージよりも高いというグラフを多分アルゴリズムが取って、他の人にも「おすすめ」として表示されるわけです。そしたら、本来カルマを観ない人たちにも届く。で、その人たちの満足度が高かったら、他の人にも「おすすめ」されるわけですよね。これでいくと、鬼ほどバズるのは数日後だろうなと思ったんですよ。そしたらドンピシャで3日後にぐぁーってバズって。
──予想的中。
カルマ それで4日後には1万人増えて、そっから本当に数珠繋ぎで増えてって。トントン拍子にいってるようにみえるかもしんないすけど、なんとかトントン拍子に見えるように仕向けたっていうのが正しいです。こういう細かいロジックを頭の中でずっと考えてるんですよ、俺。緻密ですけど、全部感覚です。だから俺以外には、このやり方はおすすめしないし、できないでしょうね。
──でも、鬼バズりした変装企画、バッサリ捨てましたよね。
カルマ なんていうんですかね。「人気のものは人気なままで終わらせなきゃいけない」と思ってて。例に出すのもおこがましいかもしれないですけど、昭和の山口百恵さんがなんで伝説として語り継がれてるのかっていうと、やっぱり全盛期に引退したからだと思うんです。YouTubeも作品として考えたら企画を使い古すようなことをしちゃダメなんじゃないかって。だから変装企画もバスった瞬間に終わる時期を考えました。
──バズった瞬間に終わりを?
カルマ はい。やめ時を考えないと、僕自身が変装企画にのまれちゃって、その企画以外で伸びない人、いわゆる一発屋になっちゃうんで。あくまで母数作りというか、バズらせるための着火剤として考えないといけない。そうしないと渾身のネタを他のYouTuberにパクられて終わりですよ。登録者1万〜2万人なんてYouTube界でほぼ人権がないみたいなものなんで、言葉悪いですけど、パクられ放題なんです。そうやってみんな生き延びてるんで、良いとか悪いとかの話じゃなくて。YouTubeやってる以上パクりは阻止できないから、パクられた時に「いや、それカルマでしょ」っていう声がコメント欄の上の方に出るように、一瞬でバズらせてすぐに引く。ちょうど夏休み期間だったんで、そこで変装企画2〜3本バッてやって終わらせました。
——変装企画1発目にK-POPアイドルを選んだのにも理由がありますか?
カルマ K-POPファンって固定数が絶対いるんで、数を集められるなと考えたんです。でも、ずっとそればっかだとK-POPのイメージから抜け出せなくなるんで、山﨑賢人さんやジャスティン・ビーバーに微妙にスライドさせていきました。固有名詞を使わせてもらってる以上は失敗できないんで、そこに惹かれて見に来た人の心は確実につかまないとならない。だからオープニングにめちゃくちゃこだわりました。特に変装企画はマスクしててずっとしゃべらないんで、動画の全体の尺の初めの4分の1ぐらいをグワーッとしゃべる時間にして、変装したその人ではなく俺のファンになってもらえるように取り込む。そうやって「企画につく数字」じゃなくて「俺の数字」をどんどん貯めててって、次の着火剤である「ストーカーホームパーティー企画」(※3)を投下する、と。1万人でストーカーはリアルじゃないし、感じ悪いじゃないですか。ストーカーで数字を取るにはまずその人自体に価値がないといけないんで。
──さっき撮影でカルマさんがピザを食べていた時に、「ストーカーホームパーティー企画」がパッと浮かんだんです。カルマさんって奇想天外な企画が多い印象ですけど、意外と炎上したことはないんですよね?
カルマ ないんですよ(笑)。ギリギリのラインでクリーンになったやつが、一番強いと思うんで。
——発想はブっ飛んでるけど、すごく礼儀正しいなと感じます(笑)。
カルマ 実際俺のやってることって全然過激じゃなくて、編集とかしゃべり方でそう見せてるだけです。本当に過激系のYouTuberなら、こういう雑誌のお仕事は来ないと思うし、なんていうか「公式感」ないじゃないですか。ただ、最初から公式っぽく真面目にしちゃうと企画の幅が狭まるので、アングラっぽいところから始めて、「分かる奴には分かる」みたいな感じで濃いファンをどんどん増やして母数をでかくして、実力を認めざるを得ない状況にしていくというか。その状態でエイベックスみたいな大手事務所に所属して、いろんなメディアに出て「公式バッジ」をつけると、稀な存在になれるなって思ったんです。なんか昭和の勝新太郎みたいな破天荒なスターが出てきたぞ、と思わせちゃったら勝ちだと思うんですよね。「何言っても許されるよね、この人」っていうイメージを作りつつ、でも実際何言っても許されるわけじゃないのは分かってるからギリギリを攻めてく。だから最初に言ったように、「愛されたもん勝ち」なんですよ。
──170万となった名刺を引っさげて、どこへ向かうんでしょう?
カルマ さあ、どこでしょうね。それは簡単には言葉にできないです。YouTubeは指先まで自分の意思が通っていたけど、芸能界は違いますから。たくさんの人が関わって作品を生み出す世界に足を踏み入れた以上、自分一人では完結できないんで。唯一無二のポジションを築いた以上、安易なこともできないし。求められるカルマでい続けないとならないし。そういう意味では「カルマ」に魂売った感じはありますね。
──自分で立てた戦略に苦しめられることもある、と。
カルマ YouTubeとの向き合い方も今後どうしていこうかなと考えている最中で。また一から新しい方程式を作らなきゃいけなくて、でもそれってすぐにはできないんで、考えて考えて考えて……苦しい時期ではあります。さっき、初めの方で聞かれた質問の答えなんですけど。YouTubeをやる目的って、YouTubeのやめ時を探すため、かもしれないです。
──YouTubeやめるためにYouTubeを始める……。
カルマ アイドルがアイドルやめるためにアイドルをやる、みたいなのと似ているかもしれないですね。思い出作りじゃないんで、生き残るための戦いなんで、先手先手を打っていかないと。ネットの爆発力って、やっぱりすごいんですよ。ゆえに引き際もめちゃくちゃ早い。本来起き得ないことが起き得る、すげえ夢がある危ない世界です。だから、本当にすごい人が観られるべきだと思うし、引き際を常に考えないと足をすくわれる。ネットは諸刃の剣なんで。クッソ強い時もあるけど、その矛先が自分に向いてくる時もあるんで。
——諸刃の剣。策士であるカルマさんなら華麗に使いこなしそうですが。
カルマ 答え合わせはこれからです。まあ、カルマの行く末を楽しみに見ていてください。
インタビュー全編は本誌をご覧ください。
※1:2020年8月に刊行した初の著書『ここ日本言うてな』(KADOKAWA)では、壮絶な生い立ちから非行へ走り、14歳で少年院に入った過去を告白。娯楽が極端に制限される中で小説の面白さに目覚めたという。
※2:変装したカルマが有名人のフリをして街中を歩き、大パニックを起こす企画。K-POPアイドルからスタートし、山﨑賢人、ジャスティン・ビーバーへと変装する人物を微妙にスライドさせてイメージの固定化を防いだ。
※3:『【警察案件】2週間付けて来たガチのストーカーを警察に通報せずホームパーティーに招待してみた...』。ストーカーと自宅でホームパーティーを開くという前代未聞の企画で鬼バズりした。
※4:『カルマが旅立ちました。』2020年夏から2021年夏までの活動休止中は、失踪説や死亡説などさまざまな憶測が飛び交う異例の事態に。その事態を逆手に取ったセンセーショナルな動画で見事復帰を遂げ、1日で10万人も登録者が増加。その翌日、大手芸能事務所エイベックスへの所属会見を行い、Yahoo!ニュースの急上昇1位になるなど、大きな話題を呼んだ。
※5:『多額の請求をしてきたぼったくりバーに警察を突入させて完膚なきまで叩きのめす...』。ぼったくりバーにカルマ演じる私服警官がオトリ捜査として潜入し、ニセ警察官を突入させるというスリリングな企画。前後半合わせて1880万回以上再生される「神回」なった。
【PROFILE】
1996年生まれ、福岡育ち。2018年にYouTube 参入。破天荒にしてミステリアス&ユーモラスなキャラクターと圧倒的な動画編集のクオリティで人気を集め、YouTube・SNSの総フォロワー数は200万人を超える。2021年夏、約1年間の活動休止を経て劇的な復帰を遂げると同時に大手芸能事務所エイベックス所属を発表。テレビをはじめ、活躍の場を急拡大している。アパレルブランド「YOUTENA」のプロデュースも手掛ける。著書に『ここ日本言うてな』(KADOKAWA)。