2021年12月10日発売「my HERO vol.02」より引用
【YouTuberの戦略】my HERO vol.02 ~ BEHIND THE SCENE ~
──YouTubeには、最近は芸能人の参入も目立っていますよね。ふくれなさんは6年間、トップクリエイターとして支持を集めてきたふくれなさんは、その立場が「脅かされる」ような不安は覚えませんか?
ふくれな YouTuberがかなり注目されるようになったので、芸能人も絶対に始めるだろうな、と思ってました(笑)。でも、芸能人はYouTuberではない。YouTuberっていうのは、YouTubeで評価されて、ファンを増やして、有名になっていった人。芸能人がチャンネルを開設するとすぐに何十万とフォロワーがつきますけど、それは知名度を考えれば当たり前のことだと思います。一方で、私はずっとYouTubeで活動をしてきていますが、これまでずっと応援してきてくれたファンの人たちは変わらず私のチャンネルを面白いと思って観続けてくれているし、芸能人に対して敵対するみたいな、そんな感情はまったくないです。むしろ、私はYouTubeが好きでたくさん観るので、また新しい流れが来て面白いなと思います。芸能人のチャンネルも観ますよ。
──誰のチャンネルが好きですか?
ふくれな 「しもふりチューブ」(※1)がすごく面白いですね。たぶん、粗品さんがめっちゃYouTube好きなんですよ。トークももちろんすごいし、二人の仲が良いから観ていて楽しい。無理やり演じているような仲の良さじゃなくて、素っぽくて、リアリティーもあるし。コンビやグループでやるんだったら、やっぱりリアルに仲良くないとあまり観られないと思います。
──リアリティーというのが大事なんですね。それはYouTuberとして伸びていくための戦略でもあるのでは?
ふくれな 戦略というほど大げさなものではないかもしれないですけど、大事だと思います。私も、例えばカップルチャンネルをやっていた時には、本当は日頃から家事をする人間なのに、YouTubeとしての面白さを狙って、「家事をしない」という設定にしていたこともあって。でも、そういう、「お茶目に思われたい」「かわいく思われたい」という下心があると、自分でも編集する時に「キモいな」「鼻につくな」と思うようになってしまって(笑)。最近は全部「素」で、話したいことを話して、あまり飾らない感じを意識しています。例えば、芸能人のナイトルーティーン(※2)を観ていても、おしゃれだし憧れはするけど、親近感を覚えるわけではないと思うんですよ。芸能人だと越えられない一線みたいなものがあるのかもしれないけど、リアリティーをウリにしてきたYouTuberだったら自分をさらけ出せる。逆に、私が女優さんみたいなおしゃれなナイトルーティーンをやっていても面白くないじゃないですか。自分がやりたいこと、伝えたいことをそのまま動画にして、ファンと繋がることができるのがYouTuberだと思います。
──ただ、不特定多数の人たちに向かって自分をさらけ出すことはハードルが高いように思います。ふくれなさんは、ストレスを感じることはないんですか?
ふくれな それは、2017年に初めてすっぴんをさらした時に、「壊れた」という感じです。あ、「殻を破った」っていう言い方が正しいのか(笑)。観る人がどんな反応をするのか、やっぱり最初は不安でした。実際、「すごい詐欺だな」「これだから女のすっぴんは怖いんだ」って言ってくる人もたくさんいて、でもそれはほとんど男性。それまで私のチャンネルは男性のファンもそこそこいて、「かわいい」といったコメントをくださったりしてたのですが、すっぴんをきっかけに男性ファンはほとんどがサヨナラしたように思います。その分、女性のファンが一気に増えて、今やチャンネルを観てくれるファンは9割が女性です。年齢は、私の少し年下から、上は28歳くらいまでいらっしゃいます。
──すっぴんを見せたことで、男性ファンは離れ、より共感の度合いの高い女性から幅広い支持を得たんですね。
ふくれな そうだと思います。当時はすっぴん見せる人も少なかったんです。でも私は、美容系のYouTubeを観ていた時に「カラコンどこの使ってるんだろう、紹介してほしいな」とか思っていました。だから、自分自身がこうしてカラコンまで外して、すっぴんを見せることができるようになって、よりファンとの距離が近づいたと思うんです。紹介しているメイクのアイテムも、私の「本当に良い」という思いがそのまま映像を通じて伝わっていくようになったと思います。だから、リアルな自分をさらすことで得たものと失ったものを比べると、得たものの方が断然大きいですよね。私自身も、これまでは「かわいく思われるための角度」などを考えて動画を撮っていたけど、そういうことは何も考えなくなって、純粋に楽しめる状況になったな、と。
──ふくれなさんは、ファンとのエンゲージメントが非常に高いと言われています。それゆえに、コメントはネガティブなものもポジティブなものも大量に来ますよね。誰かにその対応を任せたいとは思わないですか?
ふくれな 思わないですね! 全部自分で見たいです。ネガティブなコメントは大量に届くわけではないですよ。応援のメッセージや、こんな動画を撮ってほしいといった貴重な意見がいただけることの方が多いので、それが見たいんです。たまにヤバいコメントがきても、「あぁ(ため息)……逆に見ちゃってごめんね」ってスルーします(笑)。いろいろな意見を聞いて、「確かにな」と思うこともあるし、「反省しなきゃ」と思うこともあるし。ファンネームは「保護者」とさせていただいているんですが(笑)、本当にファンのみなさんとのコミュニケーションを通して、私が成長させてもらってる感じです。……以前、すごく落ち込んでいて更新が滞ってしまった時、「大丈夫?」「私はふくれなの動画で人生を変えてもらったから、いつまででも待ってるよ」ってコメントをくださった人がいて。すごくないですか? こんなに愛してもらっているんだから、これからもがんばらなあかんな、と思うんです。
──あたたかいですね……。他のYouTuberさんも、ファンとの関係性はそんな感じの方は多いんですか?
ふくれな そのYouTuberさんのスタンスにもよりますよね。「どう思われても構わない」みたいに尖っているスタンスだったら、きっとアンチコメントもたくさん来ると思いますし。YouTuberの間では、「ファンは鏡だ」と言われてるくらいです。ファンを見たら、その人がどういう人かわかる、ということがよくあります。私のファンは「メイクでコンプレックスが解消された」「動画を観て元気をもらえた」と言ってくれる人が多いです。私自身、すっぴんやありのままのキャラクターをさらけ出すことによって、見た目へのコンプレックスは薄れてきていると思います。「どういう姿でもいいから観てほしい」という感情が芽生えてきたというか。でも、「もうちょっと顔がちっちゃかったら」「目が大きかったら」という思いは、完全になくなってはいないんです。だからこそ、どうしたらかわいくなれるか、どんなコスメを使ってどんなメイクをすればいいのか、ということは、ずっとずっと研究し続けていくと思います。コンプレックスがなくならないからこそ、新しいものを作ろうというパワーにもなっているのかもしれません。私のチャンネルを観てくれるファンは、そういうパワーを求めてくれているんだと思います。
──そんなふうに美容系YouTuberとしてご活躍されていますが……。
ふくれな 美容系……えっと……はい、いちおう(笑)。
──「美容系」と呼ばれると笑っちゃう感じなんですか(笑)。
ふくれな 「美容系」というと、自分は関根りさ(※3)さんや、みきぽん(※4)さんに影響を受けてメイクを始めているので、その人たちのイメージが強いというか……。キレイで、シュッとしてる感じです。自分がそれを名乗ってもいいのかなと、ちょっと恥ずかしくなっちゃいます。
──でも、美容系を名乗るにふさわしく、コスメについてたくさんリサーチをされていますよね。
ふくれな しますね。動画を始めた最初の頃は「アットコスメ」の星を参考にしていましたが、最近はInstagramのコスメフリークの方のレビューや、美容メディアの新作コスメカレンダーなどから情報収集をしています。あとは、韓国のYouTuberさんの動画を観たりもします。私、TWICEなど韓国のアイドルが好きなんですけど、みなさんってそのステージごとに着せ替え人形みたいに印象が変わるし、特にメイクがすごいなと思うんです。韓国のメイクさんたちがYouTubeをやっていたりするので、そこから、「ここをこうしたら崩れにくいんだ」「こうしたら目が大きく見えるのか」とたくさん勉強させてもらっています。いちファンでもあり、研究対象でもありますね。
──研究が尽きないほど数多くのコスメブランドや商品が存在していることはご自身でも実感していると思いますが、その中でなぜご自身でブランドを立ち上げたのでしょうか?
ふくれな 自分で使った時に、「ここちょっと惜しいな」と感じるものが少なくなかったんです。発色が弱かったりブラシの太さがいまいちだったりで、買っても満足できなくてお蔵入りになるものもありました。自分で作ったらもっと満足いくものになるだろうなと思ったし、そういう私が満足できるコスメを、自分のファンにも使ってもらいたいな、と思ったんです。
──ブランドをデビューさせるまで、どれくらいの時間がかかったのでしょうか?
ふくれな 製作期間は1年半くらいでした。化粧品会社の方と打ち合わせをしてたくさんの要望を出させていただき、上がってきたサンプルをまた改良してもらい……という繰り返しでした。カラー展開や、パッケージデザインについても、細かく打ち合わせをしていって、ようやく完成しました。そうやって生まれた「CipiCipi」を使って、「人生変わりました」「今日使ったらかわいいねってほめられました」なんて言ってくださる方も多くて。「告白されました」とか──それはたぶん「CipiCipi」は関係ないんですけど(笑)。そんな意見を、YouTubeのコメントやInstagramのDMでたくさんいただくので、本当に作ってよかったと感じます。
──そういうユーザーの声も、製品作りに反映されるんですか?
ふくれな はい、マスカラはそうやって誕生しました。マスカラを作ってほしいという声、そして、「垢抜けられる色が欲しい」という声もあったので、ピンクやテラコッタカラーをカラーバリエーションに入れました。
──今後はどんな商品展開を想定していますか?
ふくれな マスク生活が終わったらハイライトやチークも作っていきたいと思います。今の「CipiCipi」はポイントメイクがメインですね。下地やファンデーションは他のブランドでも良いものがたくさんあるので、「CipiCipi」では作っていないですが、もし改良の余地があると今後感じれば、ベースメイクにも拡大するかもしれません。
──YouTubeという場、YouTuberという職業は今後、どう変わっていくと思いますか? 先駆者の一人であるふくれなさんに、ぜひ伺いたいです。
ふくれな 人の入れ替わりは激しいですけど、この5年くらいでそこまですごく状況が変わったかというと、そうでもないんですよね。だから、ただプレーヤーが増えていくだけだと思いますよ。まだYouTuberっていう職業に対してネガティブな見方をする人もいますけど、そういう人って、いつも他の人のことを見下すような接し方をしてると思うんです。私は、YouTubeをちゃんと観てくれて、認めてくれる人とお互いに尊敬してやっていけたらそれで大丈夫。だからこれからも、胸張って「YouTuberです」って言っていきます。私は最初とりあえず「有名になりたい」という気持ちで始めたんですけど、今は、コンプレックスがある人に寄り添っていきたいという気持ちが強いです。それは、ファンをこんなに身近に感じられて、心と心で分かり合えるYouTuberだからできることでもある。だから私はYouTuberとして、少しでもコンプレックスが解消されるようなコスメをこれからもファンと一緒に作っていきたいと思います。
インタビュー全編は本誌をご覧ください。
※1:しもふりチューブ……お笑い芸人「霜降り明星」(せいや・粗品)によるチャンネル。2021年11月時点でチャンネル登録者数は145万人。
※2:ナイトルーティーン……帰宅してから寝るまでの夜の習慣を撮影した動画のこと。動画投稿者のリアルな生活を見ることができると人気になり、YouTube動画におけるフォーマットのひとつとなっている。
※3:関根りさ……看護師として働きながら、2012年にYouTubeチャンネルを開設。すっぴんからメイクをする美容動画で人気に。
※4:みきぽん……河西美希。『Popteen』『LARME』などの雑誌でモデルとして活動しながら、2014年からYouTubeチャンネルを開設。
1999年大阪府生まれ。10〜20代女性からの圧倒的な支持を誇る美容系YouTuber。2015年9月チャンネル開設。コンプレックスだったすっぴんブスを改善するために編み出したメイク術で広く知られるように。2020年8月には「メイクの魔法を信じて一緒に可愛いを育てていこう!」というメッセージでコスメブランド「CipiCipi」をローンチ。著書に『ドブ女の逆襲』(宝島社)。チャンネル登録者数は183万人(2023年5月20日時点)。