2021年8月5日発売「my HERO vol.01」より引用
【YouTuberたちの告白】my HERO vol.01 ~ BEHIND THE SCENE ~
──エミリンさんは、2018年の夏にYouTuberとして活動開始されて急成長で注目を集めましたが、もともとは芸能事務所に所属して芸人として活動されていたんですよね。
エミリン そうです。大学在学中にアミューズのオーディション(※1)で合格して、3年くらい芸人として活動していました。ツインテールでピンクの衣装で、エミリン星から来たっていう不思議キャラで。
──芸能界への憧れというのは、子ども時代から持っていたんですか?
エミリン 小学校の頃にはミニモニ。に憧れてました。でも、私すっごく内気で、クラスでもおとなしい方だったので、そっとグッズを集めて「いつかミニモニ。になりたいな」なんて思いながら、今でいうオタクみたいな感じで楽しんでたっていうくらいで。
──小学校の卒業アルバムに書いた将来の夢はなんでしたか?
エミリン うわ、何書いたんだろう……覚えてないです(笑)。ただ、たとえばディズニー好きだからディズニランドで働きたいな、とかミニモニ。が好きだから歌手になりたいとか、そういう「好きなもの」へのふわふわとした憧れはいろいろありました。
──内気な性格でありながら、表に立つことへの憧れはあった……?
エミリン 人見知りで内気な自分ではできないことだから、憧れたんだと思うんですよ。自分と真逆の存在、自分にはないものを持っていて、すごいな、いいなって。
──将来の夢が初めて具体的になったのが、高校生の時なんですよね?
エミリン 高校生の時、アニメにめちゃくちゃハマって、声優になりたいと初めて夢をちゃんと持ったんです。素の私では人前に立つってできないけど、声優はキャラクターになるわけで、自分じゃないものになって表に出れるって素敵だな、って思ったんですよね。それで、親に内緒で声優養成所を受けたら合格したんですけど、反対されて。小学生の時に「ミニモニ。になりたい」って言ったり、中学の時に「AKBに入りたい」って言ったりしてたから、親にしてみれば「なんだ次は声優か」みたいな感じだったと思うんです。指定校推薦で大学進学も決まっていたので。
──でも、せっかく見つけた本気の夢を反対されて悔しかったのでは?
エミリン その時はすごい悔しかったんですけど、反対されたことで、「いや、それでもやっぱり声を使って何かする仕事がしたい」っていう気持ちに気付いて。ちゃんと否定されたことで、はっきり分かった気がします。
──それで、大学に行きながらアナウンススクールへ。
エミリン そうです。親としては、普通に大学を卒業してまっとうな社会人というか、会社に入って働いてというのを期待してたとは思うんですけど。だから、申し訳ないなあとは思いつつ、アナウンススクールに週3回通ってました。大学の授業は全然覚えてないけれど(笑)、アナウンスの勉強は本当に楽しかったですね。
──大学の同級生はエミリンさんの夢やアナウンススクールのことは知っていたんですか?
エミリン スクールに通ってるのは話してました。けど、私もその頃は保険かけて「就活にも役立つから」みたいな言い方をしてて。実際そういう子もいたし。本気で声の仕事をしたいっていうことは言ってなかったと思います。
──でも、著書にあった写真(※2)のアナウンススクールのテキストの余白を埋めつくす書き込みにはものすごい情熱を感じましたし、そのあと芸人を経てYouTuberとしてここまでの道のりも平坦ではなかったでしょうし……内気だった女の子がここまでやる、その原動力ってなんだったんでしょうか?
エミリン 原動力っていうか、なんか本当に人生がずっと日陰というか、クラスの中でもパッとしない、モテもしないし何かに秀でたわけでもないし、モブキャラみたいな人生だったから、一回くらい主人公になってみたい、一回くらい輝きたいみたいな気持ちがあっただけかもしれないですね。みんなが笑ってくれたりとか、それを評価されたりする対象に自分がなってみたい、みたいな憧れを自分の中でずっと持っていたんだと思います。
──そういう憧れは、まず芸人という仕事で実現したわけですが、芸人になった時の覚悟とか気持ちはどんなものでしたか?
エミリン なれるんだったら、自分のありのままのキャラクターで愛されるようなタレントさんになれたらいいなと思ってたんですけど、事務所の人に「芸能界は厳しいから、最初はまずはインパクトで覚えてもらえることをしないと」って言われて。渡辺直美さんも最初はビヨンセのものまねで人気になったでしょ、っていうような例をいろいろ聞かされて、「なるほどそうか」って腑に落ちて、それでツインテールの不思議キャラの芸人っていうふうにスタートを切ったんです。
──キャラはマネージャーさんの案だったんですか?
エミリン ざっくりと最初の提案はマネージャーさんで、そこからは一緒に考えるっていう感じでした。アニメが好きだから、自分の好きなアニメのキャラクターをいろいろ組み合わせたり、こういう感じだったらできるなって考えて。
──でも、芸人ではなかなかブレイクできず、精神的にもきつい日々だったようで……。
エミリン そうですね。かなりメンタル鍛えられました(笑)。
──一方でその頃にTwitterでは動画がバズっていました(※3)。ネットに活動の場を移そうとは思わなかったんでしょうか?
エミリン その当時はまだ、テレビの芸人さんの中ではまだまだYouTubeって素人のものっていうイメージだったし、私もそう思ってて。自分はオーディションで合格してせっかく芸能事務所に入れてもらったんだから、一般の人がやってるネットなんかでやったらダメでしょ、って思ってました。事務所にも失礼だし、って。しょうもないプライドです。今考えると、事務所のブランドにすがっていたのかもしれない。やっぱり言いたかったですし「アミューズです」って(笑)。
──当時のキャッチフレーズ「アミューズの最終兵器」。あれはご自分で考えたんですか?
エミリン そうです(笑)。
──確かにオーディションに受かったというのは大きな自信になりますよね。
エミリン 自信というか、プレッシャーでしたね。でも、そういうのがあったから苦しくてもがんばれたのはあります。
──それでも3年がんばってダメで事務所も辞めて、会社員になろうとYouTuberのプロダクションであるUUUMを受けた際に、面接で説得されてYouTuberに挑戦することになったわけですが、YouTubeやYouTuberを評価していなかったのに、やろうと思ったのはなぜですか?
エミリン 芸人時代に知り合ったYouTuberやいろいろな人の動画をちゃんと観るようになって、「あ、編集って実はこんなに細かく考えられているんだ」とか「こんなにたくさん効果音やテロップ入れて工夫しているのすごい」とかに気付いて。YouTubeのこと自分は全然分かってなかったんですよね。実際にYouTuberの人に会ったりした時も、動画ではすごい無茶苦茶やっているような人がすごく礼儀正しくて、視聴者さんのこととか流行とかいろいろ考えて作っているんだ、プロなんだっていうことを実感したんです。それで意識が変わりました。
──ちゃんと知って目から鱗だったわけですね。それって、今YouTuberとかYouTubeを毛嫌いしている人にも言えることではないでしょうか?
エミリン そうですね、食わず嫌いな方が多いんじゃないかなと思います。YouTuberにはいろんな人がいるので知ってもらえれば、一人くらい興味の持てる人がいると思うし、ちゃんと観てもらえれば「これ編集めっちゃがんばってるな」「すごく考えてるな」っていうポイントがあると思うので。
──芸能界でテレビを目指していたエミリンさんが、YouTubeをやってみて分かったことはなんでしたか?
エミリン やっぱりYouTubeは視聴者さんと距離が近くてアットホームなんですよ。テレビって、観ている人の声が直接届くことってなかなかないですけど、YouTubeって観ながらリアルタイムでコメントが来るじゃないですか。だから、それを見ながら「あ、もっとこういうのがいいのか」「そういうのもやってみようかな」とか考えて、動画の企画とかも徐々に変わっていくんです。私は、芸人の時にキャラを作らないと受け入れてもらえないって思ってて、エミリンっていうキャラを本来の自分とは違う人格としてやってたんですけど、YouTuberになってからは「素のエミリンがいいよ」っていう声が多くて。それでネタじゃなくて日常系の動画とかも入れたら、それが意外と反応が良くて「ありのままの自分でも受け入れてもらえるのがYouTubeだったんだ」って感じたのはあるかもしれないです。
──タイミングもあったのではないですか?
エミリン そうかもしれないですね。基本的には、やっぱりなんでも挑戦するのは早い方がいいとは思っているんです。YouTubeももっと早く始めてたらもっと伸びてたかもしれない、とも思うし。ただ私が始めた頃は女性YouTuberさんって美容系の方とか多かったので、あのタイミングだったからこそ「ちょっと変り種が出てきたな」っていうふうに観てもらえたのはあるかも。ラッキーだったかもしれないですね。
──動画を作る際に、心がけていることってなんでしょう?
エミリン 最初は、人ができるだけやってないことをやろうっていうのは心がけてて。あと、やってみたら自分が本当に心から楽しい、と思った企画が伸びたんですよ。
──「アリエルになってみた(※4)」とか?
エミリン そうそう! ディズニー好きなんで、そういう自分の好きな本当にやりたいことやってみようっていうのが、今思えばすごく伸びたのかな。あ、あとは編集ですね。私の編集って、めちゃくちゃ間を詰めているので。
──テンポ速いですよね!
エミリン 速いです。テレビの編集だったら考えられないくらい。やっぱりYouTubeを観ている人って、ちょっとでも間があるとそこで離れてしまうらしくて、その間がないように詰め詰めにして。
──そういうテンポ感って、芸人時代に鍛えられた反射神経もあるのでは?
エミリン あると思います。自分の中で気持ちいいテンポがあるんですよ。あと、やっぱりスイッチは入れていると思います。普段の私は友達もそんな多くないし、ずっと家にいるし、そんな明るいほうじゃないし。でも動画の時は、パチッてスイッチ入れて、みんなに喜んでもらえるエミリンになる、というか。とはいえ、誰でも会社の顔と家族に見せてる顔って違うと思うので、それと同じなんじゃないかなと思います。違うバージョンの自分、みたいな感じで、どっちも楽しい。あ、このスイッチも、多分エミリン星で生まれました(笑)。
──では、YouTubeをやっていて一番「ハッ」させられたことって何ですか?
エミリン 自虐が意外と人を傷つける、ということ。私は「ブスだし卑屈だし」っていう自己肯定感低いキャラを全面に出してやっていたんですけど、応援してくださる方が増えてきた時に、「応援してる人が、あんまりネガティブだと自分が応援してるものを否定されてるみたいで悲しい」っていう声をいただいて。「あ、そっか。それは確かにそうだな、失礼だな」って、あんまり自分を卑下するのはやめようって思ったんですよね。あと、今私、身長156センチで体重56キロなんですけど、「私、標準体重より重い」と言うと「私もっと重いんですけど」とか「影響力のある人がそういうふうに細いほうがいいみたいなことを言うのはどうか」とか言われたり。もちろんそのご意見も一理あるんですが、それぞれの捉え方というか考え方が違うので、難しいところだなあとは思いますね。ある人には嫌な印象を与える一言が、別の人には救いになるということもあるので。ただ、自分が内向的でコンプレックスの多い人間なので、いろいろな気持ちが分かるというのはあります。
──実はそういう性格がYouTuberに向いていた、ということもあるんでしょうか?
エミリン あるかもしれないです。YouTuberって華やかな仕事に見えるけど、みなさん自分で考えて撮影して家で一人で編集して……って職人気質の人が多くて、学生時代にクラスの中心のキラキラキャラだっていうよりは、あんまり目立たなかったりとかコンプレックスがあったりとかのほうが意外と多いかもしれないと思います。
──なぜでしょう?
エミリン 多分、ネットにみんなが求めているものって、憧れより共感なんだと思います。憧れの人は芸能人で、YouTuberはもっと身近で親近感がある存在。だから、テレビの中ではキラキラしている芸能人の方も、YouTubeではオフを見せるとか工夫してらっしゃって、上手だなと思います。
──今、エミリンさんの憧れの人って誰ですか?
エミリン 直接こうなりたい! というのとは違うんですけど、渡辺直美さんはかっこいいなって思う。あと指原(莉乃)さんとか、仲里依紗さんもすごい憧れます。自分で自分のことを理解して受け入れ、それを発信してお仕事に活かし、ライフスタイルに活かし、自分らしく生きている感じがするのがかっこいい。私は自分のこと理解するのもまだまだ。
──探っている状態?
エミリン そうですね。
──今の原点とも言える、声優の夢についてはいかがですか?
エミリン はい、やっぱり18歳の時に声優になりたいと思ったその気持ちがまだ残ってるんです。結局、挑戦しない限りずっと残っちゃうんだということが分かったので、今年はそっちの勉強もチャレンジしようと思っています。
──では、YouTuberとしての目標は?
エミリン ちょっと前まではチャンネル登録者数200万人って言ってたんですけど、今は数字にこだわるのを完全にやめようと思ってて。たとえば、一人で夜どうしようもなく病んでる時とかにふと見たら「ふふっ」って笑えた、っていうような動画を作るYouTuberになれたらいいな、と思ってます。
インタビュー全編は本誌をご覧ください。
※1:大手芸能事務所アミューズが主催した「アミューズオーディションフェス2014」。同じオーディションで女優モデル部門で合格したのが、NHK朝ドラ『おかえりモネ』の主役の清原果耶
※2:『ここは負けても死なないテーマパーク』(宝島社)P.197
※3:芸人時代Twitterにアップした「暇だったので世にも奇妙な物語のテーマに歌詞つけて失恋ソングにしました」「ディズニーランドキャスト、新人とベテランの違い」などの動画は2016年当時トレンド入りした。
※4:2019年7月7日の動画「グアムの海で、念願の人魚になりました……」。これを機に自分の好きなキャラクターになってみるという動画をいろいろ制作している。
警察官の父と元警察官の母の間に次女として生まれ、兵庫県明石市で子ども時代を過ごす。大学在学中にキャスターを志してオーディションを受けるも会場で自信をなくし、バラエティ部門に急遽変更して見事合格。2014〜2017年の間芸人として活動するも芽が出ず、就職を決意。普通の生活をしながらクリエイターと仕事ができればと、YouTuberプロダクションのUUUMの採用試験を受けるが、面接官に説得されてYouTuberに挑戦する。2018年の夏から活動を始め、2020年2月に「エミリンチャンネル」は登録者数100万人を達成。同年9月からは等身大のおしゃれをコンセプトにしたアパレルブランド「EDNA」をプロデュース、11月には初の著書『ここは負けても死なないテーマパーク』(宝島社)発売。チャンネル登録者数は164万人(2023年5月20日時点)。